1980年ごろまでは、研究よりも偉い人(学会のトップや大学教授)の意見が優先されていました。
現在では、EBM(Evidence Based Medicine)が全盛。大規模なデータ(証拠)に基づいた医療、ケアが主流です。
もっとも証拠として信頼できるデータとは、大規模試験の結果をまとめた研究報告です。
以前のような権威者の発言や、一例報告はほとんど参考にしてはいけないレベルです。
このナースのお勉強では、EBMは気にせずにExperienced Based Medicine(ExBM)でお勉強したいと思います。個人の経験に基づいた医療、ケア。現在では、もっともエビデンスレベルが低い知識とされます。ですので、参考程度にしてください。
在宅医療ではEBMが使いにくい、使えないなどの話は、またどこかで。
【褥瘡の分類】
NPUAP分類(アメリカの分類)とDESIGN分類(日本の分類)が有名。他にもたくさんあります。両方覚える必要はありませんが、どちらかは必ず覚えましょう。
ここでは、NPUAP分類を例に勉強します。
ステージIからIVと判定不能の5段階があります。DTIと言われる褥瘡の前段階もありますが、ここでは、割愛します。
ステージI : 消退を伴わない発赤、皮膚損傷を伴わない。
(看護師用語:発赤、医師用語:紅斑、紫斑)
皮膚損傷を伴わないがポイント。見た目は、皮膚はきちんとしている。
二つ目のポイント。消退しない発赤というのは、指などで圧迫して消退しない発赤がステージIです(血流障害が示唆される)。発赤が消失すれば褥瘡ではありません。
ステージII : ご存知、表皮が剥離した状態。真皮に達する傷です。水泡もここに相当します。
(看護師用語:表皮剥離、医師用語:びらん、潰瘍)
見た目は、ピンク色から鮮やかな赤色。
ステージIII : 真皮を超えて、皮下組織(脂肪)に達する。
見た目は、皮下脂肪の薄い黄色。筋肉や骨までは到達しません。
ステージIV : 骨、腱、筋肉にまで達する。ポケットを形成することが多い。
判定不能 : 壊死組織で覆われており、創の深さの判定が不能な場合。
【予防】
これが全てです。訪問看護師に必要な豆知識をまとめておきます。
詳細はガイドラインを参照してください。
・在宅の患者さん全てに、褥瘡のリスクがあると想定する
・長期臥床、るいそう、がん末期、浮腫、麻痺、血流障害があれば高リスク
・仰臥位の場合 仙骨部、踵骨部
・側臥位の場合 大転子部、外踝部
・車椅子の場合 尾骨部
ポジションによって、予防するべき場所が変わります。
早めに予防マットの検討をしましょう。
悪条件が複数ある場合、数時間(一晩)で褥瘡ができることがあります。リスク因子が多い患者さんは、毎日、皮膚の状態観察が必要です。
【治療】
・除圧(体圧分散)
褥瘡を悪化させないためにも、除圧の継続が必要です。ポジショニングの調整、クッションなどを使用します。
・消毒しない
消毒をしても、数時間後には細菌が繁殖すると言われています。また、消毒することで再生しようとする皮膚を傷害してしまいます。
ぬるま湯の水道水を使って、優しく創部を洗いましょう。
水道水は、塩素が含まれておりほとんど無菌の状態です。生理食塩水を使用する必要はありません。
・ガーゼを使わない
処置をする時に、固まったガーゼを剥がす必要があります。これも、再生しようとする皮膚を痛めてしまいます。また、痛みを伴うこともあります。
また、ガーゼを使用することで、感染を誘発することにもなります。
ガーゼは使用しないようにしましょう。
・不良肉芽があれば、デブリ(物理的、化学的)を考慮
・自宅にあるもので治療できる
軟膏(なんでも良い 例:ワセリン、アズノール軟膏など)、オムツ、食用ラップ
消毒はほとんど必要ないので、ワセリンで十分です。
浸出液が少ない場合(ステージI、II)は、食用ラップ。
浸出液が多い場合は(ステージIII以上)、オムツで治療できます。
もちろん、保険適応となっているドレッシング材なども使用できますが、ドレッシング材を使用しないと良くならない褥瘡はほとんどありません。
【いつ医師に報告するか?】
ステージI、IIは、予防と適切なケアで、すぐに治ってしまいます。
個人的には、ステージIII以上の褥瘡を報告して、治療の指示を受けると良いと思っています。
【シンプルなケア】
高価な薬剤(例えばフィブラストスプレー)やドレッシング材を使用しなければ、治りにくい褥瘡もあります。しかし、予防、早期ケアを行うことで、自宅にあるような薬剤などを使用して、きれいに直すことができます。
在宅では、ケア担当者が代わることが多いため、シンプルな処置を心がけましょう。
【ゴールを設定する】
慢性期の患者さんの場合、褥瘡治療のゴールはもちろんきれいに治すことです。
しかし、予後が短いと予想される患者さんの場合は、治癒ではなく「悪化させない」ことがゴールになることがあります。
予後1週間ぐらいと考えられる患者さんの褥瘡でも、治癒傾向が見られることがあります。「末期だから」といって、あきらめずにケアを続ける必要があります。
チームで、褥瘡治療のゴールを確認し、共有することが大切です。
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